東京地方裁判所 昭和46年(ワ)2349号 判決
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〔判決理由〕請求原因事実は全て当事者間に争いがないところ、本件代位請求について代位の要件等につき法律上の問題はあるが、本件の主たる争点は被告主張の保険免責の成否にあるので、まずこの点につき判断する。
(一) 本件保険契約は、保険会社たる被告が、被保険者が本件自動車の所有使用または管理に起因して他人の生命または身体を害することにより、法律上の損害賠償責任を負担することによつて被る損害をてん補することを約したものである(成立に争いのない乙第一号証)ところ、本件約款二章三条一項四号により、「被保険者が被保険者の業務に従事中の使用人に対するその使用人の生命または身体を害したことに起因する賠償責任を負担したことによつて被る損害をてん補する責に任じない。」旨定められ、そして同章一条三項により、被保険者には、記名被保険者のほか、記名被保険者の承諾を得て自動車を使用中の者(許諾被保険者)を含むものと定められていることは、当事者間に争いがない。
(二) 本件保険契約の記名被保険者が訴外スズバンであることは当事者間に争いがない。そして<証拠>によれば、次の事実が認められる。
本件自動車は、訴外山中が訴外いすゞ販売金融株式会社から所有権留保付割賦で購入したものであるが、その際、山中は本件自動車を専ら訴外スズバンの製品等運搬のために使用する予定であつたことと山中の信用が十分でなかつたためめ、スズバンが買主名義を貸し、また売主に対し割賦代金支払のための約束手形を振出した。それ以来山中は、自己の選任する運転手をして本件自動車を運転させて、専らスズバンの製品、材料の運送のためにこれを提供し、スズバンは山中にその対価を支払い、山中はそのうちから運転手に対し給与を支払つてきたが、運転手に対する運送上の具体的指示は専らスズバンにおいて行つていた。本件事故時の運転者訴外本宮は右の運転手として本件事故車を運転していたものである。またスズバンは運送のために運転助手等を必要とするときはその都度山中に指示してこれを選任させていたが、本件事故当日はその指示はなく、山中が自己の都合で、日頃アルバイトとして雇用していた亡輝夫に命じて荷の積みおろしのため本件自動車に同乗させたものである。
右のとおり認められ、これを左右するに足りる証拠はない。
右事実によれば、本件自動車の使用権限は第一次的には訴外山中にあるところ、山中が訴外スズバンから運送業務を専属的に請負い、本件自動車によりその業務を遂行していたものとみるか、あるいは山中がスズバンに本件自動車を運転手付きで賃貸していたものとみるか、そのいずれの見方も可能であるが、いずれにしても、運転手である訴外本宮は、基本的には山中の被用者で、その一般的監督下に本件自動車の運転に当つてきたもので、併わせてスズバンから運送業務に関する具体的監督を受けて、その被用者に準ずる地位にあつたものであり、一方亡輝夫は専ら山中の被用者たる立場において右の業務に従事していたものと考えるべきである。従つて、本件事故当時本宮および亡輝夫は共に山中の使用人として山中の業務に従事中のものということができる。また本件自動車が右の業務に使用されている限り、山中およびスズバンが共にその運行供用者たる地位にあることも明らかである。
(三) ところで右事実によれば、山中は本件自動車の基本的な使用権者そのものであつて、その使用はスズバンの承諾に由来するものではないのであるが、本件約款二章一条三項の趣旨は、一般に一つの自動車についてその使用者が重畳的に存在することが常態であることを考慮して、その使用が使用権者の意に反するものでない限り、広くそのような使用者による自動車の所有・使用・管理に起因する賠償責任損害をてん補することとし、もつて自動車保険制度を実効あるものにしようとするにあるものと考えられる。従つて、同条項の許諾被保険者を、その使用が記名被保険者の使用権限に由来する場合に狭く限定することは相当でなく、前示のような山中とスズバンとの本件自動車の使用関係においては、いずれを記名被保険者として契約しようとも、他方にもまた被保険者として保険てん補を与えようとする意に解されるのであつて、本件の山中も同項にいう許諾被保険者として本件保険によるてん補を受けうる地位にあるものと解さなければならない。
そして同三条一項四号は右規定を前提として、本件保険のてん補を受けうる地位にある者、即ち被保険者の、業務上の使用人に対する賠償責任を保険免責としたものであるから、前項に認定した事実により本件は右免責条項の場合に該当するものといわざるをえない。
(四) 原告は、右免責条項は労災保険との二重てん補を回避する目的で設けられたものであるところ、亡輝夫は労災保険給付を受けられない立場にあるから、右条項の適用がないと主張する。右免責条項の根拠の一つが労災責任ないし労災保険との重複を回避するにあることは首肯しうるが、同条項の規定の体裁に鑑み、その意は、使用者の使用人に対する損害賠償責任を一般的に労災責任ないし労災保険に委ねることとしたものと解すべきであつて、当該事故につき具体的に労災保険の適用があるか否かにより免責条項の適用を左右する趣旨とはとうてい解することができない。また右免責条項の根拠はそれだけにとどまらず、自動車が業務に使用される場合にその運行によつて業務に従事する使用人が被災する危険が一般に高いために、その危険を定型的に保険の対象から除外しようとする趣旨をも含むものと解される。
従つて、本件について労災保険の適用がないとしても、その故に右免責条項の適用がないと解することはできない。
以上の次第であるから、本件交通事故は本件約款二章三条一項四号に該当し、従つて被告は訴外スズバンおよび訴外山中に対し同訴外人らが原告らに対して負担する損害賠償責任損害についててん補の責に任じないから、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの本訴代位請求は失当である。
(坂井芳雄 浜崎恭生 鷺岡康雄)